美術の授業で使いたい言葉 〜上手という言葉を使わない〜 vol.3

  月に1回のペースで紹介する美術の授業で使いたい言葉シリーズ、今回はVol3ということで、今回も「上手」という言葉を使わずに子どもたちの活動や学習を促進する言葉掛けを紹介していきます。過去の記事はこちらからアクセス可能ですので、もし興味があれば覗いてみて下さい。

 vol.1(導入)

vol.2(「#1 この部分、すごく面白い!」「#2 ピカソを超えた!」「#3 遊びまくってるなぁ」)


 今回は短い言葉でありながら、率直で子どもたちに感覚的に分かってもらえる言葉を主に選んでみました。今回は以下の3つの言葉について説明していきます。

#4 ワオ!ワンダフル!!
#5 次は大丈夫!
#6 やられたわぁ!

 それぞれ詳しく説明しているので、よろしければどうしてこれらの言葉を使いたいのか知ってもらえると嬉しいです。


#4 ワオ!ワンダフル!!

 机間巡視をしていると、子どもたちが試行錯誤を絶えず繰り返して工夫を重ねているのがよく分かります。制作状況をゆっくり観察しながら机間巡視していると、教室を1周する間に必ず目に止まる工夫が発見できます。その時に心の中で感動の声を出したとしても、私の表情を観察している子どもか、エスパーの才能がある子どもを除いて、子どもたちに感動は伝わりません。折角の感動を誰とも共有せずにスルーするのは実に勿体無いことです。まずはシンプルに感動を制作者に伝えて、自分の表現で他者を魅了していることを自覚できるようにしたいところです。

 教師が感動を伝えることは大切ですが、それ以上に大切なのが、具体的にどの部分に感動しているのかを明確に伝えることだと考えています。私は普段作品鑑賞をするときに、子どもたちには「ぱっと見て印象的だった部分」→「どのような技法や工夫がされているか分析」→「それによってどのような効果や印象が生まれていると感じるか」をポイントに作品鑑賞に取り組んでもらっています。これがないと、漠然と「すごい」「綺麗」そして「上手」といった中身の乏しい言葉や説明になってしまいかねません。

 学習を深くするために「言語活動の充実」が叫ばれ続けているように、ただ感動して終わるのではなく、それがどのような要素によって成立しているのか認知できるようにする言語活動が必要です。教師としてこの視点を忘れず、普段から子どもたちの制作の良いところをしっかり分析して言語化し、その姿を見せることが大切だと私は考えています。

 そうしていると、生徒から学ぶことが実に多いということも分析の中で見えてきますし、そういう授業の時間は教師自身にとっても楽しくワンダフルなものになっていくと感じています。



#5 次は大丈夫!

 挑戦的な制作をしていると、必ず大なり小なり失敗がつきものです。失敗が大切ということは子どもたちも頭では分かっていますが、やはり失敗した時には大抵の場合気持ちは凹みます。そういう時こそすかさずフォローし、前進のきっかけにしていきたいところです。

 この言葉を使うとき、ただ「次は大丈夫!」とだけ言ってその場を去るようなことはありません。子どもの視点で考えると、この言葉だけだと「何を根拠に大丈夫と言っているの?」と戸惑う可能性が高いです。具体的にどの部分を見て、そのような成果が出ているからこそ大丈夫だと言えるのか、根性ではなく、根拠を示し、成功への道筋が子どもに見えるようにすることが大切です

 失敗した時に見過ごされがちな部分的成功。その部分を教師が冷静に伝えることで、子どもたちは自分自身の進歩を自覚できます。そうなると、今度は成功している部分はそのままに、失敗した部分に改善を集中させたり、失敗を逆に生かしたりということも期待できます。

 言葉をかけた後の進捗を見守ることも大切で、「次は大丈夫!」と言って放置プレーでは、生徒が再チャレンジして生み出した変化へのフィードバックができません。机間巡視して1周してきた時には、「順調ですね」「その調子!」と声を掛けて、見守っていることをアピールし、安心感のある状態で取り組んでもらえるようにしたいところです。

 エイミー・C・エドモンドソンは「心理的安全性」に学習・イノベーション・成長をもたらすということを研究の中で明らかにしており、安心して挑戦できる環境をつくることがリーダーには求められていることを述べています。漠然と「何をやっても大丈夫」とするのはチームとして育っていない中では果敢な挑戦に繋げにくく、ただの馴れ合いになりかねませんが、「君の取り組んでいる挑戦はここが素晴らしい!失敗しても大丈夫なので、どんどんやりたいことをしてくださいね!」という感じなら挑戦すること自体を冒険のように楽しむことができます。

 教師が子どもたちのペースメーカーのようになっている状況を見ることがありますが、主体的な活動の場合、教師が子どものペースをコントロールすることは理想とは言えません。新学習指導要領が定める主体的で対話的な深い学びにおける教師の姿とは子どもたちの冒険の伴走者となることにあると言えます。挑戦する子どもたちに寄り添い、一緒に冒険を楽しむぐらいの気持ちで授業をすることが大切であると思います。


#6 やれれたわぁ!

 この言葉は、度肝を抜かれるぐらいに新鮮な発見があった時に使います。教師の度肝を抜いたとなれば子どもたちも鼻が高くなります。

 この言葉を「凄い」や、先ほどの「ワンダフル」という言葉に置き換えることも可能かもしれませんが、これらの言葉は耳に馴染みのある賞賛する言葉です。それに対して「やられた」という言葉は敗北宣言として普段は使われるもので、これが相手を賞賛するために使われるのはかなり稀だと思います。逆にこの言葉を普段から高い頻度で使っているようだと、かなりツボが浅く、程度も低い印象を植え付けてしまいかねません。

 生徒から学ぶ姿勢を常々大切にしていると言っても、何だかんだ、教室の中で教師は特別な存在で、知識的にも経験的にも子どもたちからすると簡単には越えられない者として認識されているのが普通だと思います。そんな教師から「やられた」と言われたら、自分の工夫した表現が効果抜群であることを自覚できることでしょう。そうして自信をつけることができると、攻めた表現にどんどん取り組んでいくようになります。

 最初は「また先生や他の人を驚かせてやろう」というサプライズ精神から始まるかもしれませんが、これを繰り返しているうちに、ただ単純に表現に夢中になっていき、工夫が自己目的的な行為、すなわち「遊び」になっていくことも期待できます。

 制作と遊び、そして学習と遊びが一体化したとき、フロー(ゾーン)という人間が最もパフォーマンスを発揮できる状態に没入していきます。そのような状況を授業で少しでもたくさんの子どもたちに実現できるようにするのが教師として大切な役割だと思います。




 最後まで読んでくださってありがとうございました。今回は「ワオ!ワンダフル!!」「次は大丈夫!」「やられたわぁ」という率直で感覚的に伝わりやすい言葉を紹介させていただきました。私自身、常に良い言葉掛けができているかというと、そうではなく、後で反省しなければいけないこともよくある未熟者ですが、こうして改めて言葉について考えをまとめると明日からの授業もポジティブな気持ちで臨めると感じています。

 これからも授業で使いたい言葉について実践と研究を継続していきたいと思います。今年度も残り1ヶ月を切りました。良い年度の締めくくりができるよう、明日からも楽しみながら頑張っていきたいと思います。

 それではまた!

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