年に一度の大切な機会 ステンシルで年賀状作成

 今年もあと少しとなりましたね。新しい年を迎えるにあたって、毎年この時期はステンシルでクラスの生徒宛に年賀状を作成しています。SNSが普及している時代において、年賀状を作成するメリットを感じない人も多いと思いますが、私は「教育と美の研究の一貫」として年賀状を作成し続けています。

 今回はステンシルで年賀状を作成することの魅力についてお話しします。2024年の年賀状作成は今からでもなんとか間に合うと思うので、今回の内容を読んでもし興味を持つことができれば取り組んでみて欲しいです。


版画で一枚一枚色の実験 

着彩を楽しむことが目的

 年賀状といえば印刷で済ませる人も多いと思いますし、予め絵柄がついている年賀状はがきも多いですが、私はステンシルで一枚一枚色の実験を楽しむことを大切にしているので、少々時間はかかりますが、色のバリュエーションを変えて着彩します。
 着彩では主にスパッタリングというブラシにつけた絵の具を網で飛ばしてスプレーのような効果を出す方法を用いています。これによって、混色による絵の具の濁りを防ぎ、目の中でそれぞれの色が混ざって(視覚混合)、それぞれの色を生かしつつ濁りの少ない明るい表現が可能になります。この視覚混合の技術は明るい光の表現を追求した印象派以降の画家が活用し、現代ではプリンターや電子画面の技術にも応用されています。
 全ての年賀状を同じ色にすれば作業時間は格段に短く済みますし、ある意味で楽になります。そもそも年賀状は一人一人に届くものなので、色を変えたところでもらっている本人にとっては何の関係もなく、「生産性」という意味で考えると一枚一枚色を変えることには「無駄」が大いにあると言えます。しかし、着彩すること自体が本来楽しいことなのに、「生産性」に重きを置きすぎて折角の楽しむ機会が失われしまうようでは本末転倒というもの。年賀状を作成する目的は「楽しむ」ことにあるため、私は一枚一枚色の実験をしながら発見を楽しむようにしています
 

ステンシルに色が着いていく楽しみも 

「無駄」にこそ遊びを見つける

スパッタリングで優しく着彩していると、版にも色が着いていきます。最終的には色が混ざり合って暗い色になりますが、製造過程で色を楽しむこともできます。


 これは普段の授業でも当てはまることですが、結果よりもプロセス自体に楽しさがあるわけで、急いで作品を制作しても過程を楽しむ余裕がもてませんが、一枚一枚味わうようにして取り組んでいると、色んな発見があるものです。取り組んでいることそのものに面白さがあるという意識を大切にしていると、たとえ時間がかかったとしてもその時間は無駄ではなく、有意義で幸福な時間になります
 これがプリンター印刷の場合だと状況は全く違ってきます。相当な物好きでない限り、プリンターから一枚一枚同じ印刷物が出てくるのを楽しむことは難しいと思います。プリンターを初めて使った時は印刷される画像に心を躍らせて眺めることもあるかもしれませんが、多くの場合はプリンターから同じものが出される状況をただ眺め続けるというのは変化のない退屈な時間に感じることでしょう。
 そのように考えると、ステンシルで年賀状を作成するというのは生産性という面では「無駄」が多くても、その「無駄」があるからこそ楽しんだり味わったりすることが可能で、そもそも文化という物自体が生産性では測れない「無駄」を楽しんだり遊んだりするものであると思います。なので、文化を学ぶ美術教育において、過度に生産性「成績や何か仕事の役に立つこと」を求めるような指導上のアプローチには注意が必要であると考えています。
 私がこれまで研究してきた「遊び」という現象は何か他のことに「役立つ」ものとして利用されるようになると、遊びそのものが破壊されてしまう可能性を持っています。いかに「無駄」と上手に付き合えるかということが遊びや創造活動を楽しめるかの鍵を握っているのではないでしょうか。

ステンシルならではの質感

 プリンターで印刷されたはがきの表面と比べると、ステンシルによって彩られたものは質感が全く違います。プリンター印刷はインクが染み込んでいますが、ステンシルの場合ははがきの上に絵の具(アクリルガッシュを使用)が物質的に存在感を放っていて、触ると少しざらつきを感じます。この質感はステンシルだからこそ出せる質感であると思います。その他にも、手作業ならではの緩さが味となり、版画としての魅力、本物の作品としての印象を見る人に与えると私は考えています。
 こういった質感のある本物の作品である年賀状を受け取ることで、普段は感じることができない感性を刺激し、美術の可能性について考える機会になるかもしれません。少なくとも、そういう体験がないより、あった方が美意識は刺激されます。そういう教育的な視点も大切にして版画を作成するようにしています。

謙虚に浸る時間

 普段の生活では生徒と馴れ合った関係で、悪気がなくてもついつい横柄な態度を取ってしまうこともありますし、これは友達や気の合う同僚同士にも言えることだと思います。
 私は年賀状をステンシルで絵付けすることに加え、万年筆で心を込めて字を書くようにしています。普段は殴り書きが99%ですが、万年筆を手に取って感謝の気持ちを文章と字に込めて書く年賀状という機会は自分にとってとても大切な謙虚に浸る時間であると考えています。
 普段から謙虚であることを大切にしなければいけないと思いつつも、つい気が緩んでしまうのが人間ですし、もちろん私もゆるゆるで傲慢な人間の一人です。そんな私ですが、年賀状というツールを通して、ひたすら謙虚に浸る体験をすることができます。そういう時間が定期的に必要であると考えています。
 相手への敬意を字に込めて丁寧に書くことが大切であることは間違いないことですが、現実的には常にそのようなモチベーションで字を書くことは簡単なことではありません。それゆえに、年に一度、謙虚に浸る時間を大切にし続けたいと思います。
 ただ、字を書くこと自体は本来楽しめるものであると私は考えています。実際に国語の習字の授業を覗いてみると、いつもは字を書くことが苦痛でめんどくさいという生徒も楽しんで一画ずつ魂を込めて字を書いています。結局、文字を書くのがストレスになるのは時間が限られていたり、わざわざ面倒な作業として取り組むゆえに文字を書くことに対してネガティブな意識が働くのであり、全ては取り組み方次第ということではないかと思います。年賀状は改めて字を書くこと自体の魅力について考えさせてくれる大切な機会にもなります。

 最後まで読んで下さってありがとうございました。今回はステンシル版画で年賀状を作成することが私にとって年に一度の大切な機会であることをお話しさせていただきました。何か参考になることがあれば嬉しいです。

 過去にもステンシルの年賀状に関する記事を書いていますので、気になる場合はどうぞご覧ください。

2023年に向けて年賀状作成 ステンシルと年賀状の魅力

ステンシル版画で年賀状作成 2022年に向けての準備

 それでは2023年もあと1週間となりました。今年が終わるときに悔いのないように最後までやりたいことに夢中になって取り組んでいきたいと思います。冬休みは短い時間だからこそ時間を大切にして新年、新年度に備えたいと思います。

 それではまた!

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