構成美のスモールステップ 〜音楽に合わせて色と形を描く〜

 今回は中学1年生のグラフィックデザインの学習過程として位置付けている構成美の作成に向けたスモールステップ教材について紹介します。これはインストゥルメンタルの音楽に合わせて色と形だけの抽象画を描くというもので、生徒の感性を刺激し、色と形を雰囲気(テーマ)に合わせて構成する体験を通して構成美の基本要素を直感的に理解したり、構成美に対する難しいイメージを和らげることを狙いとしています。

 この学習に先立って、構成美について簡単に紹介しますが、いきなり構成美の作成に入るより、音楽を聴きながら色と形でテーマや雰囲気を表現する経験があれば、より気持ちを楽にして構成美に入ることもできると考えてこの教材を作成しました。音楽と平面表現ということで、勿論カンディンスキーの表現についても教科書を利用して簡単に紹介します。

 この教材を実際にやってみて、短時間で抽象画を描く経験が、その後の構成美制作に非常に有効だと手応えを感じたため、今回記事にまとめました。今回の内容が平面の表現力を育てる上で何か参考になるものになれば嬉しいです。



学習効果について分析

 音楽のイメージを色と形で表現するという説明を聞いて、最初は何を描いたら良いのか分からず困惑する生徒もいましたが、音楽の雰囲気に合わせて色を選び、リズムに合わせて手を動かしているうちに絵ができていくという手応えを掴むことができれば、瞬く間に絵を発展させることができていました。

 音楽に合わせて描く上でのポイントになるのが、まずは色を使うことです。音楽は瞬く間に流れていくものなので、鉛筆で形を描くだけでは色による雰囲気やイメージを表現する間もなく終了してしまいます。この発想はモネが一瞬の光をそのまま描くために、色を短時間で画面上に配置した描き方が参考になりました。着彩できるものであれば色鉛筆、マーカー、クレパス、水彩、ポスターカラーなど、何でも良いと思います。私のお勧めは水彩やポスターカラーを出してパレットスペースを作り、筆で描いていくという方法です。水を加え過ぎなければコピー用紙でも問題なく描けます。

 この教材の学習効果について分析すると以下のような点で有効性があると考えています。

  1. 直感的な理解の促進: 言葉や具体的なモチーフに縛られず、音楽からインスピレーションを得て色と形を表現することで、生徒は構成の要素(色、形、配置、リズム、バランスなど)を感覚的に捉えることができます。これは、「構成のルール」を意識し過ぎて慎重に構成美を描くことを回避し、構成そのものの面白さや奥深さを体験する上で非常に有効と考えます。まるで積み木やレゴブロックでの創造的な遊びのような感覚でできるだけでなく、平面表現ならではの形に縛られない自由な造形力を発揮することができます。

  2. 創造性の刺激: 抽象画という形式は、生徒の自由な発想を促します。正解や不正解にとらわれず、自分自身の内面にあるイメージを表現することの魅力や面白さを感じられると思います。

  3. 多角的な学習: 聴覚(音楽)と視覚(絵画)を結びつけることで、より多角的な学習体験を提供します。また、同じ曲を聴いて描いているにも関わらず、生まれる作品は多様であるため、色と形の扱い方について視野を広げることができます。

  4. ウォーミングアップとしての効果: 最初の「ウォーミングアップ」の課題は、生徒が気軽に絵を描き始めるきっかけとなり、その後の構成美に関する本格的な学習への導入につながります。

  5. 自己表現の機会: 抽象画は、生徒が自身の感情や感覚を表現する手段となり得ます。色と形で構成する画面だけでも十分に雰囲気やテーマを表現することが実感できます。これは、芸術を通じて自己理解を深める上でも重要と考えます。

  6. 具体的な構成要素への橋渡し: 「シンメトリー」「リピテーション」「グラデーション」「コントラスト」などの構成美が、抽象画の構成要素として含まれていれば、それをそのまま構成美として利用することができます。生徒は自分の描いた抽象画に、これらの要素がどのように現れているかを考えることで、より深く理解できることが期待できます。


 音楽は3分から5分程度のものを生徒のリクエストで流しました(「ミッキーマウス・マーチ」「粉雪」「宿命」など)。生徒の知っている曲の場合、インストゥルメンタルであっても特定のモチーフにイメージが引っ張られてしまいかねませんが、だからと言ってミッキーマウスの曲でミッキーをひたすら描くということにはならず、色と形で音楽に合わせて抽象画を描く生徒がほとんどでした。

 指導する際の反省点としては、自由に画材を選ばせたことは良かったのですが、一部の生徒は鉛筆を握ったまま他の画材にスイッチすることなく、色を生かせないケースも見られたことです。画材は自由と言われ、色も形も自由となると、「じゃあ鉛筆の黒で」となる生徒もいます。それがこだわりというのであれば良いのですが、普段使っているシャープペンシルを使うというただの恒常性によるものだとしたら、学習体験という意味で非常に勿体無いことになります。

 全ての生徒が色や形で遊ぶことに意欲的であれば自由にさせるのが良いと思いますが、そういう状況ではないことも頭に入れて、指導をすることが重要であることを改めて認識する機会となりました。授業時間に余裕がない場合、すぐに音楽を流して始めたいところですが、30秒でも良いので、色を用意する時間を取ってから始めることで、その後の成果に差が生まれると思います。そういう意味でも絵具を枠外に出しておいて、パレットと画面を一体化させた形で描く方法がお勧めです。


 ちなみに、この方法に関しては以前にパレット絵画と三原色水彩画いう教材についても記事を書いているので、良かったらこちらもご覧ください。

 パレット絵画

 三原色水彩画



短時間でも構成美を作成できる

 この音楽を利用した絵画を構成美のスモールステップとして入れることで、その後の構成美も非常にスムーズに進めることができます。音楽に合わせて色を選択し、形を構成するだけでも雰囲気のある画面ができることを体験することができれば、構成美もそれほど難しく考えることなく気軽にできます。

 構成美に取り組む時間は大体10分程度と短時間ですが、8種類の構成美を全て達成できる生徒も多くいました。構成美の概念への理解度が不十分で、構成美の条件を満たせていないものも中には含まれますが、まずは試しに作ってみることが大切と考えています。この学習では短時間でたくさんの構成を考えることを優先しました。

 時間をかければ手の込んだ構成美も作ることはできますが、構成美はグラフィックデザインの導入教材であり、簡単にできるということを実感することができれば十分です。構成美はあくまでもグラフィックデザインを作成する上でのステップと考えて指導しています。


GoogleスライドやCanvaで構成美をデジタル化


 短時間で手描きした構成美は次の時間にはGoogleスライドで綺麗に仕上げ、デジタルの良さを実感できるようにします。グラフィックデザインの学習ではポスターやロゴ、カードなど、自分が制作したいものを考えるPBL型の取り組みにしており、最終的にアナログで制作するかデジタルで制作するかは個人の判断に委ねています。アナログとデジタル双方のメリットについて理解を深めることで、より自由に考えたことを形にすることができるようになる可能性も高まると考えられるので、色々と試すことができる仕掛けを大切にしています。ちなみに、デザインツールのCanvaもグラフィックデザインの学習では便利で、機能が充実しているので、Googleスライドと併用して使えるようにしています。

 イメージをスケッチなどですぐに表現する場合はアナログの方法がやりやすいと私は考えていますが、こういうことも個人差があるので、デジタルだけで取り組む生徒がいても、それはそれで良いと考えて指導しています。しかし、それでも音楽に合わせて抽象画を描く経験はイメージを色と形で構成する上で大切だと思います。積み木や砂場、自然との触れ合いの中で造形遊びする経験が創造力の源泉になり得ることと似ています。これらで培えるバランス感覚や量感、材料の扱い方や組み合わせ方などはあらゆる創造の場で生かされます。

 音楽という目に見えないものでもテーマや雰囲気が確かに存在し、それを感じ取って色と形で表現する。そして、それが構成美という美の法則にもつながって、様々なデザインの基礎として生かされます。このような行為は普段の生活ではあまりすることがない故に、教材として扱うことが教師のコーディネーターとして大切な役割あると考えています。


 最後まで読んでくださってありがとうございました。今回は構成美のスモールステップとして音楽に合わせて色と形を描く抽象画について紹介させていただきました。内容は中学1年生の教材ですが、小学生や幼児にとっても良い造形体験になると思いますし、大人にとっても楽しめる自由な絵画スタイルなので、興味があれば是非試しにやってみてください。抽象画は奥が深いです!

 ちなみに今日は夏休み2日目。今年の夏休みは勤務日の半分以上が出張日で、出張時間以外は部活をねじ込んだので超ハードモードですが、時間を有効活用して充実した長期休暇にしたいと思います。あと、育児にも励みます(笑)

 それではまた!

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