美術の授業で使いたい言葉 〜上手という言葉を使わない〜 vol.4

   月に1回のペースで紹介する美術の授業で使いたい言葉シリーズ、今回はVol.4ということで、今回も「上手」という言葉を使わずに子どもたちの活動や学習を促進する言葉掛けを紹介していきます。過去の記事はこちらからアクセス可能ですので、もし興味があれば覗いてみて下さい。

vol.1(導入)

vol.2(「#1 この部分、すごく面白い!」「#2 ピカソを超えた!」「#3 遊びまくってるなぁ」)

vol.3(「#4 ワオ!ワンダフル!!」「#5 次は大丈夫!」「#6 やられたわぁ!」)


 今回紹介する言葉は次の通りです。

#7 どこまで進化していくん!?

#8 思わず二度見した!

#9 この表現、良い意味でメッチャ気になる!

 それぞれ詳しく説明しているので、よろしければどうしてこれらの言葉を使いたいのか知ってもらえると嬉しいです。


#7 どこまで進化していくん!?

 生徒は試行錯誤しながら作品に変化を加えていきます。ただ、その変化が好ましいものであるかどうか、生徒の中には不安に感じながら制作をしているケースがあります。特に、元々美術に対して苦手意識をもっている生徒の場合、手を加えた分作品が悪化してしまい、下手な表現を重ねて恥ずかしい作品を制作しているとネガティブに考えてしまっていることもあります。しかし、手を加えた分、作品が悪化するなんてことは基本的にはないと考えるべきだと私は思います。生徒がやりたいと思って加えた工夫、挑戦の結果生まれた変化は進化ととらえ、そういった状況を見取ることができれば「進化してますね!」と言葉掛けし、それが順調に続いている場合は「どこまで進化していくん!?」と、進化していくことへの期待を驚きと共に伝えたいところです

 ただ、「進化している」と言うだけではあまりにも抽象的な賞賛ですし、それが本人にとって望ましい進化かどうか分からないので、「これからさらにどうしていきたい?」と聞くこともよくあります。その時に「この部分をさらに〜して〜を表したい」と、順調に進化させていく道筋が計画できている場合もあれば、「実は本当は〜したかった」という感じで、進化というよりはどちらかと言うと失敗だったということが分かる場合もあります。いずれにしても、生徒がその後どうしていくか考えたり、アドバイスしたりする機会にはなるので、この言葉掛けが生きることになります。

 生徒にとっては失敗だった場合、どうしたいかを聞き出して必要に応じてアドバイスや指導をしますが、この際、全てを失敗と捉えるのではなく、私が進化を感じたポイントは伝えるようにします。それを生徒が聞くと「じゃあこのままでもいい」と開き直ることもあって、これには良し悪しがあると思いますが、どの部分がよくできているのか自覚することができれば、それを生かしなながら表現を発展させることが可能になります。

 そもそも美術の授業では良い作品をつくることよりも、良い経験と学びをすることに重きが置かれるべきです。そう考えると、作品が試行錯誤の中でたとえ崩壊したとしても、見方によってはその過程には何かしらの進化があり、その部分を肯定的に捉えられることが大切だと思います。

 最近はGIGAスクール構想によって、制作の過程をICT端末で撮影し、Googleスライドなどで記録を残すという方法(振り返りシート・学習レポート)を活用できるようになりました。しかもそれをルーブリックで暫定評価することもでき、その評価を生徒は自分の端末で毎時間確認することができます。完成作品だけでなく、制作過程を丸ごと評価できるようになったため、生徒は安心して挑戦することができるようになったと感じています。これまでは制作過程を評価していたとしても、暫定評価を伝えることが難しい状況でした。それが手軽にできるようになり、生徒の活動を促進することに繋げられるようになったのはとても大きな環境の変化です。

 主体的な学習が求められるこれからの時代、挑戦を繰り返しながら進化する姿を見取り、生徒に進化しているポイントをフィードバックすることは、教師に特に求められるものになります。生徒の進化から教師としても学べるものもたくさんあるので、生徒と共に進化していきたいですね。


#8 思わず二度見した!

 驚きの表現ができていることを実感させる上で「二度見」という言葉はとても印象的だと思います。普通のものを見ても二度見することはありませんが、独創的で個性的なものを見た時、人は思わず二度見します

 日常的にはあまり二度見をしていないように思えて、私自身は結構二度見をしているような気がします。人に対して二度見したら失礼な印象を与えかねないので滅多にしませんが、身の回りの目に入るものは割と二度見、三度見しているのが私にとっては普通です。結局のところ、気になるものは何度でも見ようとするものです。

 生徒の制作を見ていると、気になる表現がたくさん目に入ってきます。それをしっかり観察すること自体が教師として大切な仕事ですが、それを終始無言で過ごしてしまうのは勿体無いと思います。二度見するような表現を見たのであれば、それは言葉として発し、人を魅了する表現をできていることを生徒に伝えても良いと思います。授業中に何度も「思わず二度見した!」と言っているとこの言葉も安っぽくなりますが、たまに使うぐらいなら生徒の活動を促進することにもなると思います。


#9 この表現、良い意味でメッチャ気になる!

 「この表現メッチャ気になる」だけでも十分だと思いますが、思い切った工夫で捉え方によっては雑とも言えるような表現に対して「メッチャ気になる」と言うとネガティブな印象を持たれかねません。「良い意味で」というポジティブな印象を与える前置きがあると、より安心して使えます。

 教師が表現の工夫を積極的に発見し、関心をもっていることを生徒に自覚させることで、安心して挑戦できるようになります。それはどんなに小さな工夫でも良いと思います。そんなものにでも教師が関心を示し、期待を寄せていることを伝えることができれば「これでも大丈夫なんだ」と生徒が認識し、自然と手は動き、アイディアも広がります。そして、そこからさらに「メッチャ気になる表現」が生まれていきます。

 今回の3つの言葉はどれも「驚き」に関する言葉ですが、驚きを共有すると、それが自然とさらに驚きの表現を生み出すことになります。ICT端末は驚きの表現を共有する上で非常に有効に使えます。私は2年前にChromebookが生徒も使えるようになってから、制作共有スライドというものを活用して、授業中に撮影した生徒の表現を共有スライドに貼り付け、全ての生徒が見ることができるようにしました。これによって、私が驚いて撮影した表現がクラスや学年全体に共有され、そこからさらに表現が発展していくという流れが生まれました。

 その一例としてボンドを活用した表現を紹介します。この表現で初めて私を驚かしたのが水滴の反射を表すためにボンドを使ったものでした。ボンドの透明感と艶感が水滴を表現するのに非常に有効であり、ボンドが絵具として有効であると感じ、その表現を共有しました。そこから瞬く間にボンドを活用した表現は多くの生徒の手で進化を遂げていきました。


 良い意味で気になったものを共有して進化のスイッチを入れる。この現象は文明や文化の発展と同様の構造だと思います。自分たちでより良いものを創り上げてきた経験こそ、生涯にわたって生きる学びになるのではないでしょうか。そんなことを信じながらこれからもたくさんの気になる表現を発見し、生徒と共有していきたいと思います。


 最後まで読んでくださってありがとうございました。今回は「どこまで進化していくん!?」「思わず2度見した!」「この表現、良い意味でメッチャ気になる!」という言葉を紹介させていただきました。どれも「驚き」を含んだもので、生徒の制作を観察していると驚きの表現をたくさん発見できます。その驚きを伝えるために色んな言葉を使い分け、子どもたちの活動を促進していきたいと思います。また、驚きが生まれない授業には絶対にならないように、生徒の主体性を引き出すことができる授業も考えていきたいと思います。

 今回の記事で2022年度最後となります。来年度に向けて春休みは良い準備をして、また記事にできるような実践がたくさんできればと思います。 

 それではまた!

コメント

このブログの人気の投稿

スプレッドシートの年間指導計画に様々な要素をリンクさせ、「共有場」として機能させる

Canvaで道徳をアクティブに 〜Googleと連携して〜

Google Jamboardで道徳をアクティブに vol.1

Google classroomを活用した美術科における振り返り活動 vol.1