段ボール棚を和柄でデコレーション 前編
今回は段ボールで作った棚を和柄でデコレーションする「教育美術」を紹介します。
おそらく多くの人がたくさんの段ボールをお家に蓄積させているのではないかと思います。もちろん、段ボールは資源ゴミとして回収されリサイクルされるので、段ボールがたくさんあったところでそれほど問題ではないですし、下手に活用して可燃ゴミとして処分するよりは資源ゴミとしてサイクルさせる方が環境的には優しいことなのかもしれません。ただ、この段ボールは工作の素材として非常に優秀であり、色んな造形遊びができるだけでなく、保管用の箱やちょっとした簡易的な棚として実用的に使うことも可能であることはよく知られたことです。美術教師をしていると、教材を購入するたびに大量の段ボールを入手することになるので、これらの段ボールのおかげでこれまでに部屋の整理やちょっとした工作にこれまでたくさん活用してきたので、私は段ボールに対して感謝の念を抱きながらこれまで教員人生を過ごしてきました。
段ボールを補強して和柄のステンシルで装飾
そこで今回は日頃の段ボールへの感謝と美術教育の観点から、段ボール感を忘れさせるような美術作品を制作して、生徒に目に触れる場所に置き、美意識の涵養に役立てたいと考え、和柄でデコレーションした段ボール棚を作成することにしました。段ボールの棚を作ることは難しいことではありませんが、段ボール特有の印刷や強度の面での構造的な弱点を補った棚を作成し、美術やデザインの可能性について生徒が考える機会を持てるようなコンセプトを基に制作しました。
実はこの作品はまだ完成しておらず、年内に完成させることを目標に制作を進めています。ただ、棚としての利用はすでに始めているので、普段教室で生徒はこの棚を目にしながら授業を受けることになります。つまり、生き物のように日々変化していく作品を生徒は見ることができます。
この棚を作成するにあたってまずは強度の面をクリアする必要がありました。段ボールは波形の構造で縦方向には抜群の強度を発揮しますが、逆に波の溝の部分は非常に折れやすく、段ボールをそのまま使ってしまうと、すぐに形が撓んでしまいます。そうならないように、段ボールの内部に波形が直角に交差するよう段ボールを1枚補強ように貼り付けました。これによってかなりの重量に耐えられる棚になります。
今回和柄をデコレーションに選択したのは、以前から和柄のステンシルを日本の美の教材用に作成していたので、それを活用することで和柄の良さを改めて生徒に実感できるようにしたかったためです。和柄は平面作品として鑑賞するより、工芸品に活用されている方がそのデザイン性を生かすことができます。だだ授業で和柄を見て、なんとなく格好良い柄だと感じるより、やはり実際に和柄が使われた工芸品を見た方がその美しさを実感できるものです。丁度、2学期は2年生がステンシルで年賀状デザインを作成しているので、その授業と関連させることでより版画の魅力を知ってもらう機会にもしたいと考えました。
段ボールに和柄を写し、本体に貼り付けて段ボールの文字が隠れていくと、全く違った印象の物体へと姿を変えてきます。もちろん、まだ処理が甘い部分はたくさんあるので、これから完成に向けて仕上げる方法を思案していきます。今考えているのは段ボールの隙間を軽量粘土で埋めていくことを考えていますが、普通に埋めるだけでは面白みに欠けるので、工芸感を殺さない程度にアート的側面を少し出していこうと思います。如何なる時も遊び心を忘れずに取り組むこと。これは私が美術を指導する際のモットーにしていることですので、ただの綺麗な棚にはならないようにしようと思います。
美術室は教育美術の研究場
以前の記事で教育美術という「教育力」が美の要素になっている美術のジャンルの重要性をお話ししましたが、美術教師はプロのアーティストのような超高度な技術や高額な材料費が必要になるような作品を制作することよりも、生徒が美術に興味をもち、「これなら自分にもできそうだ」と考えさせることができるような機会を作り出すプロであるべきだと私は考えています。もちろん技術はあるに越したことはないので、技術獲得のためのトレーニングも可能な範囲で行うことも大切ですが、それ以上に美術の面白さ(美学的な部分の研究も必須)について、日々考えることが大切です。そうして多様な美術との関わり方を知ることが教材開発につながり、生徒の多様な表現を認められるようになると考えています。
美術室は教育美術を生徒に見せる最高の場所です。教室にたくさんの作品を展示し、生徒の好奇心をくすぐるものを掲示・展示するだけでなく、制作中のものを生徒の目に触れる場所に置くなど、生きた美術を生徒に見せることで美術の持つ魅力に触れられるようにすることも、生徒の美意識を刺激する上で大切なことだと思います。美術の授業は1週間に1回程度しかない故に、授業に来た時には、教室のどこかが前回から変化している状況を作り、美的な活動の価値を生徒に感じてもらえるように努めてきたいと思います。努めると言っても、ただ美術教師として美術室で遊んでいれば自然とそういったことは達成されていくものなので、常に心に余裕を持ちながら美術教師としての日常をこれからも楽しんでいきたいと思います。
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