美術の授業で使いたい言葉 〜上手という言葉を使わない〜 vol.6
月に1回のペースで紹介する美術の授業で使いたい言葉シリーズ、今回はVol.6ということで、生徒の主体性を尊重する授業の中で生徒に伝えたい言葉を3つ紹介します。これまで一貫して「上手」という言葉を使わずに、生徒の活動や学習を促進する言葉掛について紹介してきましたが、今回の内容もこのことにつながる内容です。過去の記事はこちらからアクセス可能ですので、もし興味があれば覗いてみて下さい。
vol.1(導入)
vol.2(「#1 この部分、すごく面白い!」「#2 ピカソを超えた!」「#3 遊びまくってるなぁ」)
vol.3(「#4 ワオ!ワンダフル!!」「#5 次は大丈夫!」「#6 やられたわぁ!」)
vol.4(「#7 どこまで進化していくん!?」「#8 思わず二度見した!」「#9 この表現良い意味でメッチャ気になる!」)
vol.5(「#10 壮大な美術の世界にようこそ!」「#11 美術の授業はみんなが主役」「#12 失敗最高!!ぐらいの気持ちで」)
今回紹介する言葉は次の通りです。
#13 満足できた!?
#14 新しい技術を開発したね!
#15 目が離せません!
それぞれ詳しく説明しているので、よろしければどうしてこれらの言葉を使いたいのか知ってもらえると嬉しいです。
#13 満足できた!?
ものすごく根本的なことですが、生徒自身が満足できる活動ができれば、それは明らかにポジティブな状況です。この言葉を安易にかけることはありませんが、どう見ても生徒が自ら考えてこだわりをもって取り組んでいるような状況で、それが成果となって現れてきているのであれば満足しているかどうかを聞くことが大切ですし、そもそも美術の心象表現などは究極の自己満足を追求するようなものです。大切なのは取り組んでいて「充実感があって心地よいか」と言っても良いでしょう。
美術の授業では、生徒たちが新しいアイデアや技術に挑戦することが求められます。その過程で生み出される作品には、自己の成長や努力の跡が反映されます。そのような挑戦的な制作を経て、生徒たちは自己満足感を得ることができるでしょう。そのメタ認知を促進するために「満足できた!?」と言葉をかけます。
この言葉かけを通して、本人が納得のいく表現になっているかを確認することも重要です。美術は個人の感性や表現力が重要な要素です。生徒たちは自分自身の思いや感情を作品に込めることで、個性的な表現を実現することができます。そのため、生徒たちが自分の作品に対して満足感を持つことができているかどうかを確認することは、彼らの成長と自己肯定感の向上にもつながります。
上手か下手かの問題ではなく、制作者自身が満足できるかどうかが肝心です。美術の授業では、他人と比べることなく、自分自身の成長を大切にするという考えを共有するために、普段から言葉かけをしていくことで、それが生徒にとっても取り組む上でのマインドセットになっていきます。そのよな取り組みの中で、生徒たちは自分自身の目標や意図に向かって取り組み、自己表現の喜びを感じることができるでしょう。
このような観点を持ちながら、美術の授業では参加者全員が満足のいく制作にできるようにすることを目標にして授業をしています。生徒たちが挑戦し、自己の成長や表現力を高めることで、個々の満足感が生まれます。それぞれが自分自身の作品に自信を持ち、創造的なプロセスを楽しむことができるような環境を提供することが美術教師の重要な役割です。
美術の授業においては、個々の才能や技術の差よりも、生徒たちが自らの表現を楽しんでいるかどうかが重要です。生徒たちは自由な発想を活かし、自分らしい作品をつくり上げることで、創造性と感性を養うことができます。「満足できた!?」という言葉で、取り組みの過程について生徒がメタ認知するきっかけを作り、彼らの美術への興味や情熱を深めることができれば、さらに主体的な取り組みが見られるようになると考えています。
#14 新しい技術を開発したね!
教えられたことや教科書の内容以上のことに挑戦できていることを自覚することが重要です。教科書や教師の教える内容は大切な基盤となりますが、それにとどまらず、自分自身が新たな知識や技術を開発しようとする姿勢が新学習指導要領では主体的な学びの観点から求められるようになりました。新しい技術を開発することは、自己成長やチャレンジ精神を示す重要な要素です。
他者と違うからこそ価値があることを認識することも重要です。新しい技術の創造は、他の人々との差別化や独自性を追求することを意味します。自分のアイデアや創造力を活かし、他とは異なるアプローチや解決策を見つけ出すことで、真の価値となります。自己の個性や独自の視点を活かし、他者とは異なる成果を生み出すことは、個人の成長にとどまらず、やがて社会への貢献にもつながる可能性があると考えられます。自分なりの技術で創造性を発揮し、自らのアイデアを形にし、新しいものを生み出すことは非常に楽しい体験です。創造することは、問題解決能力や発想力を養うだけでなく、自己表現や自己実現の手段にもなります。
「新しい技術を開発したね!」という言葉は、教えられたことや教科書の内容以上に挑戦し、自己成長を果たしたことを称えるものです。他者と異なるアイデアや成果を生み出すことの価値を認識し、自己の創造性や個性を大切にすることを促すことは教師のファシリテーターとしての役割を考えると、とても大切な視点です。
また、Only Oneという、誰にでもある素性をチャンスにして創造活動にいかす視点も重要です。私たちはそれぞれが独自の経験や才能を持ち、他の誰とも異なる存在です。子どもであってもそれぞれに独自の生活を送り、人生を歩んで、自らの世界を創り上げています。新しい技術の開発は、その個々の可能性を最大限に引き出すツールとなります。
自らの技術を駆使して、自己実現に向けた努力を重ねる。これは冒険のような体験であると言えるのではないでしょうか。簡単には制作が進わけではないかもしれませんが、疑問や苦労があるからこそ、冒険も挑戦に溢れた面白いものになり得ます。クエスチョン(疑問)とクエスト(冒険)は語源が同じであることを考えると、いかに自分なりの問いと向き合うことが楽しむ上でも大切であるか考えさせられます。他者とは違うアイデアやアプローチを追求し、自分自身の成果に満足感と達成感を抱いたり、自己の成長とチャレンジ精神を意識することで、自己評価を他者との比較ではなく、自らの目標との比較に置いたりすることで、制作に対する姿勢が主体性に溢れたものになると考えています。
#15 目が離せません!
この言葉かけがあると、教師から注目される取り組みができていることを認識できます。多くの生徒たちは自分自身の成長や努力を教師から認められることを望んでおり、教師からの注目や認められる機会があることは、生徒の自信とやる気を引き出す重要な要素となります。
周囲の生徒から注目されることへの意識も重要です。生徒たちは互いに刺激し合いながら成長していきます。お互いの交流や共感の機会が生まれ、学習環境が活気づけば、より一層の成果が期待できるでしょう。
教師や周囲から期待されていることへの自覚があると、更に表現を発展させて驚かせてやろうとする生徒もいます。生徒たちは教師や周囲からの期待に応えることを喜びます。このような自らの成果に対するポジティブな周囲からの反応は自信と達成感を得ることにつながりますし、そういう価値観は仕事で社会貢献するマインドセットを育むことにもつながると考えています。自分がやりたいこと、楽しいと思うことを通して、周囲の人のウェルビーイングに貢献できる手応えを得ることができれば、それが学びのモチベーションにさえなる可能性はありますし、実際にPBL(課題解決型学習)で成果が出ているアメリカのHIGH TECH HIGHの高校生たちの大学進学率が非常に高く、大学でもしっかり研究できているという調査結果があります。自ら学習を調整して生まれた成果が周囲から評価されるという環境を学校や教師がつくることが求められています。
生徒が気持ち良く調子に乗ることができるように言葉かけをして、生徒の主体性に刺激を与えることが教師のファシリテーター的側面として重要です。生徒の取り組みや成果に対して高い関心を示し、彼らの自己評価や自己成長の意識を高めたり、彼らが注目される状況において自らの主体性を発揮し、成果を更に発展させたりすることが期待できます。生徒たちは自己の能力を信じ、目標に向かって積極的に行動することで、自己成長や達成感を実感することができるでしょう。そんな姿を間近で見守り応援するのが教師の仕事と考えると、とても魅力的ですし、輝く未来への種を撒いている手応えがあると、教師自身も気持ちよく調子に乗ることができて、学習環境がポジティブな雰囲気で包まれると考えています。
最後まで読んでくださってありがとうございました。今回は生徒の主体性を尊重する言葉かけについて紹介しました。美術の授業で「上手」という言葉を使わずに生徒の活動を促進する言葉はいくらでもあります。むしろ「上手」という言葉を使うことで授業全体での生徒の学習活動は「お手本」を目指した画一的な表現に向かうことさえあります。
ただひたすら主体性を刺激することだけを考えて、言葉かけをして生徒のメタ認知を促し、活動を促進するだけでも教師の役割は十分だと思います。教師の存在意義は「学ぶ楽しさを学ぶ」ことができるよう、生徒と向き合い、環境をより良くしていくことにあります。これからも主体性を刺激する言葉かけを普段から実践していきたいと思います。
それではまた!
コメント
コメントを投稿