10分あれば楽しめるステンシル版画

 今回は版画の授業実践について紹介します。しかも非常に短時間でできる版画で、発展性や応用性が高く、非常に楽しめる版画なので、授業だけでなく、普通に趣味としても楽しめるものだと思いますので、良かったらやってみてください。



版画と言えば?

 版画と言えば木版画をイメージする人が多いかもしれません。実際に中学生に「版画といえば?」と聞くと、「木を彫る」「白黒」「(バレンで)擦る」という反応が多く、稀に「消しゴムはんこ」と言う生徒がいるぐらいで、小学校の頃に取り組んだ単色の木版画のイメージが非常に強いことが伺えます。

 木版画と言っても本来は単色だけでなく、葛飾北斎や歌川広重などを代表とする多版多色木版画、いわゆる錦絵や浮世絵と呼ばれカラフルなものもあり、一版でも多色刷りはできるため、「版画=白黒」というイメージはあまりにも版画本来の可能性から考えると経験が不足していると言えます。そもそも版画は木版画だけでなく、紙版画やフロッタージュなども木版画と同じく凸版に分類されるものであり、これらは木版画と比べると圧倒的に手間がかからない割に普通に立派な表現もできます。なので、木版画と同じぐらいに印象に残っていても良いと思いますが、木版画の「彫る」経験と白黒の印象が強烈過ぎるのか、「版画=白黒の木版画」というイメージが強烈に刷り込まれている感じです。木版画のイメージが強いのはもしかすると岡山や倉敷の地域性なのでしょうか。私は京都府の出身で小学1・2年生の時に取り組んだ紙版画の記憶もしっかり残っており、当時大好きだった動物、特にアフリカゾウに自分がまたがっている紙版画を制作したことを今でも覚えています。版画と言えば彫ることよりも「写し取る」イメージの方が私としては強くありました。

 そんな版画の授業を始める際、生徒に「今回からは版画に取り組みます!」と言ったら「版画・・・」という反応がほとんどです。粘土や絵画の時は「イエーイ!」となることが多いにも関わらず、版画はどうしたものか反応が薄いというのが率直な印象です。木版画のイメージが強いため、「あの過酷な彫る作業が始まるのか・・・」という心の声が聞こえてきそうになります。と言うよりも普通にそういう発言が口をついて出ています。木版画自体は面白いと生徒も認識していますが、とにかく大変で色もワンパターンというイメージが強いようです。

 そんな生徒たちに版画の世界とはどのようなものであるかを知ることができるスライドを1ページ見せると途端に唖然とした反応を示してくれます。版画は彫刻刀で彫るだけではないし、色もカラフルにできるし、普通の絵のような表現もできるということを知って、これまでの版画体験が非常に限られたものであったことを自覚します。


 この導入で一気にスイッチを入れたところで、早速版画体験をしてもらいます。しかもたった10分あれば十分に一作品できてしまう版画です。これはステンシル版画という紙などに穴を開け、そこから着彩を施す孔版の一種で、紙とハサミやカッター、絵具、スポンジやティッシュがあれば大変手軽にできます。


短時間で分かるステンシル版画の楽しさ

 作業手順としては、まずA5サイズの紙を配り、切り紙もしくは適当に好きな形に紙を切らせたり破かせたりします。できた形や模様をスケッチブックなどの画用紙に固定し、パレットも出さずにスケッチブック上に絵具を出し、スポンジがティッシュで絵具を取って穴の部分にポンポンと押し当てます。そうすると穴の部分だけが着彩され模様が写し取られます。


 これだけならものの5分も要りません。絵具を混ぜたり、別の版を重ねたりするとさらに模様は複雑になり、誰でも簡単に美しいシンメトリーな構成美を版画でつくることができます。

 美しい模様の版画をつくることがこの版画体験の目的ではありませんが、簡単に版画ができるため、ステンシルや孔版に興味を持ってもらうには十分な仕掛けとなります。


テンションを上げておいた上で詳しい説明

 授業ではこの版画体験をさらっとした上で凸版、凹版、孔版、平版についての紹介と、浮世絵の紹介をして一通りの知識に触れた上で、本題のステンシル版画で取り組む内容について説明するようにしています。


 以前は版画の導入をしてから体験ではなく、座学で知識に触れていましたが、すぐに体験することによって生徒のテンションとモチベーションは最高潮に達します。そのような流れで版画に興味を持ってもらった上で知識に触れる時間を設ければ、なんとか1時間テンションが奈落の底まで落ちずに持ち堪えてくれます。座学が授業の最初から20分ほど続いてしまったらいくら導入で興味を持ったとしても、すぐにテンションが落ちてしまう生徒は少なくありません。授業開始後にテンションを高く維持できるようにするために生徒主体の活動時間を入れることが大切と考えています。

 教科書的にはどの出版社も最初にがっつり鑑賞の構成になっており、一般的には授業の最初20分程度を鑑賞の時間にして造形的な視点を持たせる時間にするのがスタンダードだと思います。私も基本的には鑑賞から入るようにはしていますが、鑑賞とセットで数分から10分程度のプチ体験を入れるようにしています。こうすることで、単元に対してより自分事として向き合い、興味を持って学習することにつながると考えているためです。

 このように鑑賞や見学とセットで体験を入れるというのは、普段の私たちであれば普通のことだと思います。興味をもって見ているものがあれば、すぐにでもやってみたくなるのが一般的な感覚だと思いますし、そういうことがわかっているからこそ、スポーツクラブや電化製品店などではすぐに体験ができるようになっています。「20分間よく確認してからやってください」なんてこと言われたら途端にやる気がなくなってしまっても不思議ではないぐらいに、私たち人間はモチベーションの面で熱しやすく冷めやすい性質を持っています。だからこそ、すぐにでも楽しい体験を生徒にしてもらう授業デザインが重要だと私は考えています。

 ステンシルの版画体験は中学生にとって版画に対するイメージが固定的な傾向があるゆえに、一層強烈な印象を生むと思います。もちろんそれは授業を受ける中学生だけでなく、ステンシルのような手軽にできてカラフルな版画を体験したことがない人にとっても同様だと思います。ステンシルで楽しい版画体験を是非してみてください。


 最後まで読んでくださってありがとうございました。今回は10分あれば楽しめるステンシル版画を紹介させていただきました。道具や材料も特別なものは不要なので、気軽に取り組んでシンプルな図柄でも色や構成で存分に楽しめるステンシル版画を味わってみてほしいと思います。ステンシルについては過去にも記事を色々と書いてきましたので、良かったらこちらもついでに見てもらえたら嬉しいです。


 それではまた!

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