美術室における掲示物の工夫①
今回は学校の美術室で行っている掲示物の工夫に関して紹介します。以前にも美術室の掲示物については紹介してきましたが、それらは前任校でのものでした。転勤して2ヶ月以上たち、徐々に掲示物に着手することができるようになってきたので、これから時々掲示物の工夫に関する記事を書いていこうと思います。美術や図工で子どもたちに造形教育を行っている方向けですが、一般的なお家でも普段から造形表現に興味をもって取り組むことができるようにすることは大切なことだと思うので、使えそうなものがあったら参考にしてみてください。
色や形様々な事柄に関して学びをサポートする資料
前任校では可能な限り掲示物を工夫して美術を学べる空間を整備してきましたが、新しく務めている学校ではそういう掲示物がほとんどなかったので、これまでの経験を生かしつつ、さらにバージョンアップした掲示物を作成しています。
私が美術室の掲示環境を充実させることを大事にしている理由は、海外の大聖堂の内部空間の教育的効果に影響を受けたためです。大聖堂の内部空間はステンドグラスや壁面を生かした絵画でいっぱいになっていて、文字が読めなくても視覚的に宗教について学ぶことができるようになっています。このような仕掛けを、美術室の空間にも取り入れ、子どもたちが美術について興味をもって学び、主体性を発揮して取り組むきっかけづくりをています。
学習資料自体は教科書や美術資料に掲載されていますが、これらの該当ページを探して開く労力を考えると教室の目につきやすい所に資料を掲示しておくことにメリットがあります。詳しいことを知りたければ教科書などで学べば良いですが、最初の学びのスイッチを入れ、問題意識を持たせるのであれば教室の掲示が有効であると考えています。
色の体系性
最初に用意した掲示物が色の体系性についてまとめたもので、色相環や混色、トーン、パレットの使い方を説明しています。色相環が生徒の目に触れる場所にあることで、混色について説明するときに非常に役に立ちます。
意外と色相環の順番を把握していない生徒は多く、これが混色や配色を考える際にも影響しています。三原色とその混色、色相環を把握し、パレットの使い方がわかれば、色を自由にコントロールする力がつけられます。そのためにこの掲示物が有効であると考え、最初に用意しました。
透視図法
次に用意したのが透視図法に関する掲示物です。勤務校では1年生で学習しているということでしたが、2年生で風景画を描いている際に透視図法を活用できていない生徒が多々見受けられたので、指導に生かす上でも好都合ということで用意しました。
前任校でも透視図法に関するものは作成していましたが、以前は幾何学的な形のみで描いていたものを、今回は実際の風景に関する絵もセットにして応用方法を学べるようにしました。建物やバスの絵には消失点に向かう補助線を残して、どのように描いているのかわかりやすくしています。
特に二点透視図法は授業ではできても、その後描き方を忘れてしまう生徒が多いので、描き方の手順を簡単に示しておいたのも工夫のポイントです。
混色の色々
画材や混ぜ方によって表現が大きく異なることを説明する掲示物も用意しました。これは前任校では作成しておらず、今回の新しい試みです。
このような掲示物を作成したきっかけは、生徒には使う画材を主体的に決めてほしいので、学校で一律で購入しているアクリルガッシュ以外にも自由に画材を選択できるようにしています。教室には色々な画材を試しに使える画材コーナーを用意したり、透明水彩とオイルパステルがいつでも使えるようにグループ毎に用意したりしています。もちろん生徒が自分で画材を用意して持ってくることも可としているので、一つの単元で多様な画材が使われます。
このような環境で指導するとき、混色が画材によって大きく異なります。なので、それぞれの画材の良さを引き出して描けるよう、特徴がわかりやすいように比較できる資料としました。
混色と重色の違いも色を操る上で大切なので用意しました。混色は全員知っていますが、重色は自分の力でコントロールするレベルで理解している生徒はかなり稀です。この背景にあるのが、着彩を塗絵のような感覚で捉えている生徒が多いということです。私も大学で美術について学び始めるまでは完全にこのタイプでした。このタイプの人は、本物と同じ色を作ってから色を枠内に塗ることが着彩であると考える傾向があります。上から色を塗り重ねることはあっても、それは色を綺麗に塗り直す程度です。
この塗絵的な着彩方法は色面構成的な絵であればそれほど問題ではありませんが、静物画や風景画、肖像画のようなタッチを生かした絵になったとき、大変野暮ったい印象の仕上がりになりやすくなります。私はこの考えに固執していたため、綺麗に色が塗れず、着彩に対して強い苦手意識を持っていました。そもそも大学時代までは美術は専門でも何でもなかったので、苦手云々という次元ではなかったと言うべきかもしれませんが・・・。ただ、事実として色を塗ることへの苦手意識は高校生の時の芸術選択で美術ではなく書道を選択した理由の一つにはなっていました。それぐらい私は着彩への苦手意識を持っており、美術自体も特別得意な教科ではなかったと言えます。
重色について理解できると、色を生かしたタッチや絶妙な色の変化を作り出すことができるようになり、大変雰囲気のある絵が描きやすくなります。これに点描も加われば着彩の主な技術は抑えたことになります。
遠景から着彩する場合と近景から着彩する場合の違い
これは生徒の着彩手順を見ていて大変気になっていた上に、質問でも多かったので最近になって掲示物に加えたものです。
遠景から着彩して、その上に近景のものを被せて色を塗るのが着彩の基本ですが、ほとんどの生徒はこの逆の手順で着彩します。近くのものを描いてから、それを避けながら背景を着彩しています。透明水彩であればこの手順で描くのも分かるのですが、不透明なアクリルガッシュで上から塗り重ねて背景を隠すことができるにも関わらず近景から着彩して、背景を塗りにくそうに塗る生徒が多いです。近景を着彩した状態で「背景を綺麗に塗るにはどうしたら良いですか?」「グラデーションが塗りにくいのでコツを教えてください」と質問する生徒が後を絶たないので、遠景から着彩する場合と近景から着彩する場合の違いに関する掲示物も用意しました。
背景から塗れば近景が塗りやすく、短時間で綺麗に描けるというのは美術をしている人間からしたら常識ですし、物事の秩序を考えると、着彩で遠いものが後ろになって、近いものが手前になるのは当たり前です。しかし、指導がないとその視点を得ることがほとんどの人にとって簡単なことではないということが、指導が必要な状況から裏付けられます。
こうなるのもある意味仕方がないことで、人間は近くのものが認識しやすく、認識しやすいものから描こうとするのが人間の側からすると自然です。しかし、絵画や空間の構造を論理で考えるとそうではないという、主観と客観のギャップが存在します。
描き方は自由かもしれませんが、何も考えずに近景から描くものだと思い込んでいるのであれば、遠景から描くメリットを知ったり、そもそもどうして人間は近景から描く癖がるのか、考えを深めたりすることはとても大切です。そういったことに目を向けられるよう、この掲示物を作成しました。
生徒への説明でも役立つ
掲示物は基本的には生徒が美術表現に興味をもてるようにする仕掛けとして用意していますが、これらは私が生徒の質問に答える際にも大いに役立っています。
口頭で説明したり、教科書や美術資料で説明したりすることが多いですが、私が伝えたいポイントを抑えているのはやはり自分が作成した資料なので、掲示している資料を使いながら説明することもあります。掲示資料には美術資料の該当ページを表示しているので、詳しく調べたければすぐにアクセスできるようにしています。これは生徒にとって有益であると同時に、私自身にとっても追加で詳しく説明したいときに資料をすぐに開く際に大変役立ちます。
学びを充実させる資料が掲示されている環境は生徒にとっても教師にとっても有益ですし、教科性もあって、美術の掲示物は工夫次第で教室を飾る美しいものにもなります。教室のスペースに余裕があれば、可能な範囲で掲示物を作成し、充実した学習ができるようにしたいと思います。
最後まで読んでくださってありがとうございました。今回は美術室における掲示物の工夫について紹介させていただきました。造形教育に関わる方にとって何か参考になったのであれば幸いです。
今後も美術室の掲示環境を改善して参ります。紹介できるものがあれば、記事を書こうと思いますので、また読んでいただけると嬉しいです。
それではまた!
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