触って、試して、使ってみる 中学1年生のグラフィックデザインの学習

 今回は、中学1年生で行っているグラフィックデザインの学習について紹介したいと思います。

 中学校の美術でグラフィックデザインを扱う場合、「色や形の組み合わせを学び、ポスターなどを制作する」という流れが一般的かもしれません。私の授業でも教科書や美術資料を使って基本的な内容を学習しますが、それだけで終わらせないようにしています。

 というのも、グラフィックデザインは教科書の中だけにあるものではありません。むしろ私たちの身の回りそのものが、グラフィックデザインを学ぶための教材になるからです。

 今回はそんな課題意識から考えた私の教材と学習環境について紹介します。


実物に触れられる環境

 私たちの身の回りを見渡してみると、商品のパッケージ、紙袋、ショップカード、パンフレット、ポスター、ロゴ、案内表示など、グラフィックデザインであふれています。そこで今回の授業では、私自身が集めてきたグラフィックデザインの実物や試作品なども教卓に置き、生徒が自由に手に取って見ることができるようにしています。



 例えば、お菓子の箱を手に取ってみれば、表面にどのような色が使われているのか、文字はどのくらいの大きさなのか、紙の質感はどうなのか、箱を開いたときにどのような見え方になるのか、といったことを実際に確かめることができます。

 画面に写真を映して説明することもできますが、実物を手に取ったときには、それとは少し違った学びがあります。

 「思ったより紙が厚いな」
 「この文字、こんなに小さいのに目立つな」
 「箱の内側にもデザインがある!」

 そんなふうに、触ったり、動かしたりしながら発見することができます。
 私はこうした実物との出会いを大切にしています。

 ちなみに私はipad proのパッケージを紹介してグラフィックデザインの面白さを感じてもらう機会にしています。下の写真の左側は私が10年以上前に購入したipad proのパッケージです。この箱を生徒に見せて、「これは何のデザインでしょう?」と質問すると、

 「ペン!」

 という反応がほとんどです。「こんな大きな箱にペンはないだろ(笑)」とは思いましたが、それぐらい一瞬では何か分からないぐらいipadらしさを封印したデザインということですね。

 答えを待っているとipadという答えが出るクラスもあれば、ずっと出ないクラスもあるわけですが、答えが分かると一様に「あぁ!」という反応になります。そして、

「どうしてこんなデザインにしていると思う?」

私が聞くと、

「薄さが分かるように」

という答えが生徒からすぐに出ます。


 今でこそ高性能で薄くて軽いタブレットは当たり前なので、右のような画面の美しさを強調したデザインになっていますが、当時はこの薄さにインパクトがあると思ったのでしょう。その感覚を見事に掴んだのがこのパッケージデザインであり、「デザイン=装飾的に格好良い色と形を構成したもの」という表面的な美しさだけがグラフィックデザインではないということを感じてもらえるようにすることが学習への動機づけとして大切だと考えています。

 教室に優れたデザインの実物があると、こうした対話が手軽に生まれます。そして、その実物をきっかけに「なぜこうなっているんだろう?」と考えることが、生徒の探究的な学びにもつながっているように感じます。


グラフィックデザインの学びのプロセスを支える教材



 授業の流れとしては、まず「構成美」や「レタリング」など、グラフィックデザインの基礎となる内容を学びます。色や形の配置を試したり、文字の形を工夫したりしながら、実際に手を動かしてみます。

 そして、そこで身に付けたことを「色面構成」や「名刺デザイン」といった主要な課題へつなげていきます。さらに、その先にはポスターやステッカー、ロゴなどの制作があります。

 ここで大切にしているのが、「学んだことを使って、別のものをつくってみる」ということです。例えば、色面構成で学んだ色や形の組み合わせは、ポスターをつくるときにも生かすことができます。レタリングで試した文字の表現は、名刺やロゴのデザインにつながっていきます。

 つまり、一つひとつの課題を独立したものとして考えるのではなく、前の学習で得た経験を次の制作に持っていくことができるようにしています。

 そして、最後の発展課題では、

 「実用化できるものを作ってみよう!」

 と投げかけています。

 自分や誰かが実際に使うことのできるものを考えてみよう、というわけです。 学校の中で使うことのできるポスターやステッカー、ロゴ、掲示物など、グラフィックデザインを実際の生活につなげていきます。

 ここまでくると、美術作品を「完成させる」という感覚とは少し違ってきます。

 「誰のためにつくるのか」

 「何を伝えたいのか」

 「どこで使うのか」

 「どうしたら見てもらえるのか」

 といったことを考える必要が出てくるからです。私は、ここにグラフィックデザインを学ぶ面白さがあると思っています。もちろん、技法や構成の基礎を学ぶことは大切です。しかし、基礎を覚えること自体が目的になってしまうと、学習が「上手に作品をつくるための練習」で終わってしまいます。そうではなく、

 基礎を学ぶ → 試してみる → つくってみる → 使ってみる → さらに工夫する

 という流れをつくりたいと考えています。そのために、教科書だけではなく、実物や試作品を教室に持ち込んでいます。実物を触ってみることで、デザインが急に自分の生活の中にあるものとして見えてくることがあります。

 それまで何気なく見ていたお菓子の箱や紙袋も、「この文字の配置はどうなっているんだろう」「なぜこの色なんだろう」と考えながら見ると、まったく違ったものに見えてきます。そう考えると、グラフィックデザインの学習は、単にデザインの技術を身に付ける学習ではなく、身の回りの世界を新しい目で見る学習でもあるのかもしれません

 教室の中にある教科書、実物、材料、試作品、そして生徒自身のアイデア。それらが行き来しながら、「次はこんなことをやってみたい」という問いが生まれていく。そんな授業になればいいなと思いながら、今年も生徒たちと一緒にグラフィックデザインの学習を楽しんでいます。


 最後まで読んでくださりありがとうございました。今回は教材の紹介で中学1年生のグラフィックデザインの学習について書きました。何か参考になるところがあれば嬉しいです。

 余談になりますが、最近は優れたグラフィックデザインがパソコンやスマホがあれば誰にでも手軽に利用できる時代になりました。なので、自分でデザインを工夫しなくても良い品を扱うことはできるのであれば、デザインの学習を基礎からすること自体がタイパが悪いだけでなく、出来上がる品も野暮ったいものになる可能性さえあるので、生産性の観点でも好ましくないと思う人もいるかもしれません。「難しいことはAIに任せて、自分にできることをすれば良い」この考え方自体は間違いではないと思いますが、デザインを学び、楽しむという部分ではかなり勿体無いのではないでしょうか。

 優れたデザインを状況に応じて選び、使い分けるためにも、デザインについて学ぶことには意味があります。デザインについて学ぶことでデジタルツールがなくても、使えるリソースを生かして優れたものを生み出すことができます。

 グラフィックデザインという創造的な活動自体の楽しさや達成感、こういった充実感が得られるのも自分の頭と手を生き生きと使うことによって自己効力感や自己有能感を味わえるからこそ。

 そんな楽しい学習の時間をこれからも追求していきたいです。教科書の中だけでデザインを学ぶのではなく、身の回りの世界そのものを教材にしながら、見ること、考えること、つくることを楽しめるように教材研究をこれからも進めていきたいと思います。

 それではまた!

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