中学1年生のグラフィックデザインの学習 詳細について

 今回は中学1年生のグラフィックデザインに関する授業実践について紹介します。以前にもこの教材について説明する内容を扱いましたが、近々公開授業でこの内容を扱うということもあり、内容を整理しておきたいということもあり、より詳しく学習のプロセスが分かる内容で書きました。

 以前は教科書や資料集に載っている自然物と人工物の構成やレタリング、絵文字など、グラフィックデザインの学習では具体的な題材を設定して長時間かけて取り組んでいましたが、ICT端末が導入されて以降、できることが広がったので、以前に取り組んでいたものだけでなく、様々な要素を取り入れて、より本格的なグラフィックデザインの学習ができるようになりました。

 今回は全11時間で取り組む学習の全体がわかるように、資料をまとめました。デザインの学習には色々な方法があると思いますが、その中の一つの方法、学習のアプローチとして見ていただけたらと思います。



1 学習のねらいと題材の背景

 中学校1年生の美術科では、「グラフィックデザイナー体験 ~生活を彩るグラフィックデザイン~」という題材を通じて、私たちの身の回りにあふれるデザインの社会的役割や機能について考え、グラフィックデザインについて実践的に学習します。他者意識や客観的視点が芽生え始める中学1年生の時期において、ただ自分の思いを表現するだけでなく、「相手に伝える視点」を育むことは非常に重要です。

 この授業では、生徒たちが楽しみながら成長できるよう、大きく3つの目標を立てています。

1. デザインの基本を知り、形にする力(知識と技術) 

 形や色が人の心にどのような影響を与えるのかを学びます。その上で、「誰に何を伝えたいか」「誰がどのような意図で使いたいか」という目的に合わせて工夫し、人の目を引く魅力的なグラフィックデザインを作れるようになることを目指します。

2. アイディアを練り、深く味わう力(考える力・表現する力) 

 自分が伝えたいイメージからテーマを生み出し、全体のバランスを考えながらデザインを組み立てる力を養います。また、授業の中では教科書や資料集、過去の生徒作品、実際に身の回りにあるデザインなどを鑑賞して、「このデザインにはどんな意味や工夫が込められているのかな?」と深く読み取る力も育てます。

3. 楽しみながら、仲間とやり遂げる力(学ぶ姿勢と人間性) 

 ものづくりの喜びを味わいながら、「人に伝える」「空間を飾る」といったデザインの役割を自分ごととして捉えます。そして、自ら進んでアイディアを練り、仲間と協力しながら最後まで諦めずに取り組む姿勢を身につけます。

 デザインとは、単なる見た目の美しさだけでなく、機能性を追求して問題を解決する行為や思考そのものを指します。美術表現には、自分の感情や考えを表現することを重視するものもあれば、他者や社会との関わりを大切にするものもあります。その中でグラフィックデザインは、文字や画像、色、形などを用い、目的や伝える相手を意識しながら視覚的に情報やメッセージを届ける表現です。生徒たちは本題材を通じて学び、「どのような装飾が心地良いか」「誰に・何を・どのように伝えるか」という課題解決的な思考を身につけていきます。


2 基礎学習:デザインを構成する要素を学ぶ

 学習の前半では、グラフィックデザインの基礎となる「構成美」「イラスト」「レタリング」の3つの要素について学びます。制作にあたっては、手描きによるアナログ表現と、Chromebook(GoogleスライドやCanvaなど)を用いたデジタル表現の双方を取り入れ、生徒が意図に応じて最適な表現方法を選択できるようにしています。

 Canvaには多くのテンプレートが用意されており、短時間で見栄えのよいデザインを作ることができます。一方、基礎学習では、形や色、配置の関係を自分で試しながら構成を考える経験も大切にしたいと考えています。そのため、この段階ではGoogleスライドを中心に使い、基本的な要素を組み合わせる力を育てています。

構成美

 形や色の組み合わせには、視覚的な秩序やリズムを生み出すさまざまな方法があります。生徒はシンメトリーやグラデーションといった構成の原理を試しながら、それぞれの組み合わせによって画面の印象がどのように変わるのかを学びます。日本の伝統文様なども典型的な構成美の一例です。プリントに絵の具や色鉛筆で描いたものを、さらにパソコンに取り込んでデジタル上で美しく仕上げるといった手法も体験します。




イラスト

 自然物や人工物の構造を生かし、形を単純化(デフォルメ)してイラストを作成します。複雑なモチーフも、形を構成しやすいようにデフォルメし、色彩の効果を考えて配色することで、視覚効果の高い表現が可能になります。



文字のデザイン(レタリング)

 文字を美しくデザインするレタリングの学習では、「永」の字の明朝体とゴシック体をかき、基本的な技術を身につけます。生徒は様々な文字のデザインをGoogleスライドのフォント変更や検索で集めたり、画像を参考にして描いたり、オリジナルの字体に挑戦したりします。画家である竹久夢二が楽曲に合わせて文字をデザインした事例なども参考にしながら、文字表現の奥深さを学びます。





3 主要課題:色面構成と名刺デザイン

 基礎を学んだ後は、それらの技術を統合した主要課題に取り組みます。

 一つ目の課題は「色面構成」です。構成美やイラストの技術を活用し、自然物や人工物の形と配色を生かして、テーマ性のある画面を構成します。色面構成は、形と色で美しい画面を作り上げるものであり、グラフィックデザインにおける重要な基礎感覚を養います。

 二つ目の課題は「名刺デザイン」です。色面構成で身につけたデザイン構成力と、レタリングの技術を掛け合わせ、実際に名刺を作成します。表面だけでなく、裏面のデザインにも構成美の知識を生かすなど、実用的なアイテムの制作を通して学びを形にします。

 この場では個人情報に関わるため名刺の生徒作品をお見せすることはできませんが、既習内容を活用して自分のイメージを色面構成と文字で表現する姿が見られるようになります。






4 発展課題:社会とつながるデザインの創造

 学習の後半では、「誰かが活用したくなるデザイン」をテーマに発展課題に取り組みます。この課題の最大のポイントは、「誰のための」デザインであるかを明確にして制作することです。世の中のどんな人に使ってほしいか、誰に何を伝えたいかを考え、生活を豊かにするデザインを生み出します。

 生徒はまず、マインドマップを利用して作りたいもののイメージを膨らませます。そして、制作する作品の詳細、対象者、目的を明確にしたアイディアスケッチを作成します。制作物は、ポスターや看板、ステッカー、ロゴデザイン、グラフィックデザインを生かしたクラフト作品など、実用的なものを自由に発想します。学校内の委員会や部活動、クラスでの活用はもちろん、学校外でのボランティア活動や家族が経営しているお店などで利用されることも想定します。これまでの学習で得た知識と技術を総動員し、他者との交流タイムで協働的に学び合いながら、視覚効果の高いグラフィックデザインを創造します。




 ただ、作成物の想定に制限はなくても、生徒にとっては身近な人を対象にしたものが取り組みやすいのも事実です。個人的な趣味からデザインを考え、他の人にも使ってもらえるようなものであったり、部活動やクラスを対象にしたりしたものが多いです。とは言っても、実用を意識して優れたデザインを生み出すモチベーションが大切であり、そのような主体性によって制作された作品からは生徒が真剣にデザインと向き合って、学習してきたことを生かす姿が見られます。




5 指導上の工夫と学びの広がり

 本題材の指導においては、生徒が自律的に学ぶ「主体的な学習者」となるための環境づくりを重視しています。「社会で実際に機能するデザイン」を考える活動を通して、生徒が自分の興味や目的に応じて制作に取り組めるようにし、主体的な学びにつなげることを目指しています。また、描画力に苦手意識を持つ生徒に対する「表現の選択肢を広げる支援」としてデジタルツールを提示し、写真や文字の構成によっても十分な魅力を作れる表現の選択肢を用意しています。

 制作では、最初から完成形を目指すだけでなく、さまざまな方法を試し、うまくいかなかった点を修正していく過程も大切にしています。ルーブリックでは完成作品だけでなく、制作過程の記録や振り返りを通して、試行錯誤の内容や、工夫・改善に向かう姿勢も指導と評価の一体化の観点で捉えるようにしています。

 Googleスライドの振り返りに制作プロセスを記録させ、言語化による振り返りを行うことで客観的な視点を養います。また、生徒へのフィードバックもGoogleスライドのコメント機能で行います。こういった指導は手間が大変かかるものですが、指導を通して教師もたくさんのことを学べますし、授業が教師にとっても楽しく充実した時間なります。

 最後に、デザインに見られる構成美は、数学における幾何学的な要素や理科の自然物の構造、音楽の形式と密接に関連しており、その美意識は国語科や社会科で学ぶ文化ともつながっています。社会科で「侘び」や「国風文化」といった言葉は学習しても、それがどのような美的なものとして存在するのか理解できている人は多くはありませんが、学習の中で自分で表現することを通して、そういったことへの解像度を大きく上げる機会にもなり得ます。

 作品制作やレポート作成を通じた鑑賞活動により、生徒たちは美術の枠を超えた教科横断的な視点に気づき、社会におけるデザインの役割について深く理解していくことになります。



 最後まで読んでくださってありがとうございました。今回は中学1年生のグラフィックデザインの学習について紹介させていただきました。生徒の主体性と探求的な学習を追求して教材の改良を重ね、ある程度手応えを感じられるものになってきた本題材です。何か参考になるものがあれば嬉しいです。

 グラフィックデザインに関する学習は2年生や3年生でもテーマを変えて取り組んでいます。1年時に基礎だけでなく、社会とのつながりも意識して取り組む経験ができていれば、「1年生の頃にあれぐらいのことができたのだから、今回はさらに凄いものを作成しよう」と考えることもできます。アナログとデジタルによる幅広い表現と効率的な作業によってできることが格段に増えた今の環境を最大限に生かせるよう、これからも研究と実践を重ねていきたいと思います。

 それではまた!

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