教育美術 第5回「柚木沙弥郎ミニ校内展」

 今回は約3年半ぶりに「教育美術」に関する実践を紹介します。以前の教育美術に関する記事へのリンクをまとめていますので、よかったらこれらもご覧になって下さい。

 私自身、普段から絵を描いたり、彫刻を制作したりすることはほとんどありませんが、美術教育に関する制作は時間があれば取り組んできました。作品の主な目的が「教育」にあるため、私はこのような作品を「教育美術(Educational Art)」と呼んでいます。
 今回は染色工芸家である柚木沙弥郎(1922-2024)に関する校内掲示を行いました。掲示に際しては前回の記事で紹介したPP(ポリプロピレン)シートを活用した掲示板も活用しています。


校外研修の事前学習として要請を受ける

 「どうして柚木沙弥郎?」と思った人もいるのではないでしょうか。私も詳しくは知らないアーティストだったので、いきなり1年生担当の先生から「柚木沙弥郎について学ぶ機会を作ってほしい」と言われた時には「どういうこと!?」と率直に思いました。「校外研修で岡山県立美術館に行く機会があるため、その事前学習として紹介してほしい」と説明を受けて納得。基本的に私はイエスマンなので、早速柚木沙弥郎について勉強し、何ができるかを検討しました。
 柚木沙弥郎は染色家でタペストリーなど大きな布を活用したシンプルデザインの作品で有名なので、彼のタペストリー作品の配色と模様を参考にしてステンシルで着彩しました。さすがに注染では手間がかかりすぎるので、ローラーを使ってペンキで着彩しました。
 多少形がぼける部分もありましたが、雰囲気はある程度出せたのではないかと思います。

 柚木沙弥郎についての紹介や彼の残した言葉などもA3の紙にまとめ、岡山県立美術館で開催される「永遠のいま」展の紹介なども用意して校外研修に向けて関心を促す仕掛けを工夫しました。
 

空間利用の工夫でインパクトある展示

 授業で時間をじっくり取ることができれば良いのですが、それが時間数的に難しいため、今回のような展示による事前学習となりました。ただ、それでもインパクトのある展示であれば、少しは意識に刷り込むこともできるのではないかと思い、タペストリーを階段のスペースに吊るし、壁側に掲示物を貼り付けしました。前回紹介した掲示板がとても良い感じに掲示物を引き立てています。
 タペストリーは外廊下の構造をもつ校舎との相性が非常に良く、風になびくタペストリーが視覚的にインパクトを与えてくれます。


 階段でゆっくり立ち止まって文章を読む生徒は多くはないと思いますが、タペストリーは間違いなく目に入ります。日常的にこの空間を生徒は利用しているので、柚木沙弥郎の美の世界観に親近感を覚え、岡山県立美術館で本物を見るにあたってのレディネス(学習などに必要な準備状態や心構え)を多少なりとも培えることが期待できます
 美術館で本物を見れば、その瞬間に「あっ!」と思うことでしょうし、よく見るとその質の高さが学校で事前に見た「なんちゃって沙弥郎タペストリー」とは比べ物にならないことも気がつけると思います。そういう本物の良さを知る機会となれば美術館で偉大なアーティストの作品を鑑賞する意義も深まるでしょう。
 事前学習で関心を耕し、本物を見て大切なことに気がつく。そういうきっかけづくりを狙っているのがこの教育美術作品です。

古い校舎も掲示の工夫次第

 私が勤務する中学校の校舎は大変古く、壁のペンキも至る所が剥がれ、壁が全体的にくすんで汚くなっています。古い鉄筋コンクリートの建物で、しかも外廊下でチリや埃、コウモリやハトの糞などによって汚れてしまっているのは仕方がないことかもしれません。
 しかし、それだからと言って汚いままにしても良いことは何もありません。どうせならこの環境を最大限に生かして、恵まれた環境でなくても美術の力で心地良い空間にできるということをアピールすることが大切だと思います。
 これまでにも手作りの掲示板を増設してきましたが、これも手作りだからこそ、美的な良さが伝わるものと思います。質自体でいうと数万円出して掲示板を購入した方が圧倒的に良いものが手に入るわけですが、手作りでもできるということや手作りならではの味のある雰囲気やアレンジの柔軟さ、材料活用の面白さがあるということを、生徒が実感できるように「仕掛ける」ことに大きな意味があると思います。
 

 手作りで学校の環境を少しずつより良いものに変化させて、生徒にDIY精神の涵養を少しでも促すことは、美術教師として大切な役割であると思います。

ミニ展終了後は美術室の棚の目隠しに

 1年生が校外研修で本物の柚木沙弥郎の作品を見た後は、階段で展示していても本物と比べられて私が切ない思いをすることになるので、美術室の棚の目隠しとして利用することにしています。


 やすりがけなどすると木材や粘土の粉が美術室中に飛び散りますし、床が謎のコンクリート剥き出し状態で拭き掃除がまともにできない関係で、普段から埃が溜まりやすい欠陥構造であるため、棚に埃が入りにくくする仕掛けをこれまで望んできました。ただ、それをしなくてもなんとかやってきた過去約5年間でしたが、この度、柚木沙弥郎をオマージュしたタペストリーを制作する機会を得たので、ついでに棚の目隠しカーテンとしても活用できるようにしようと考えました。最初から目隠しカーテンにするつもりだったので、棚のサイズに合わせた布を購入していました。
 今回、1年生の先生から事前学習をお願いされた時には「仕事が増えた…」と最初は率直に思いましたが、やるからにはWin-Winになるようにしたいと考え、このような取り組みになりました。柚木沙弥郎について学ぶ良い機会になっただけでも、美術教師の自分としては十分にWin-Winだったかもしれませんが、実用性も大切にしたいとついつい思ってしまうのが私の性分です。
 ただ、これは少々口実になりますが、柚木沙弥郎が染色で師事した芹沢銈介は民藝運動の中心的人物であり、この運動の根本理念には「用と美」があり、美と暮らしが調和する「美の国」を目指していたわけで、私が「用」について意識して今回取り組んだのも、民藝運動の影響によって必然であったと言えるのかもしれません。教育美術というもの自体、教育装置としての「用」がなければただの自己満足になってしまうことも考えると、これからも、「用と美」を美術教師として貫き、生徒と共に「美しい学校」にしていけるよう活動していきたいと思います。

 最後まで読んでくださってありがとうございました。今回は教育美術の「柚木沙弥郎ミニ校内展」について紹介し、学校を美しい学べる空間にする上での私の考えも述べさせてもらいました。何か参考になるところがあれば嬉しいです。
 2024年度もあと1ヶ月少々。今年度の授業も各クラス数える程となりました。良い締め括りができるよう、最後まで走り続けたいと思います。
 ちなみに、明日2月23日はそうじゃ吉備路マラソンということで、私はハーフマラソンに出場してきます。ランナー膝の影響で万全ではないですが、なんとか目標タイム(1時間40分以内)を目指して、5年振りにレッドブルを飲んで覚醒モードで走ろうと思います!
 それではまた!

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